嫉妬篇

 
 「うわーっ! 星がすっごく綺麗だぜ土門 !! 」

 イナズマキャラバンに乗り込んで寝ようって時に、 一之瀬が満天の星空を見つけて叫んだ。

 乗り込まずイナズマキャラバンに上る一之瀬に呼ばれた土門は、 仕方なく後に続く。

 「おー、 ナニワランドの明かりが消えるとよく見えるなー」

 先に座って席を空けていた一之瀬の右隣に、 土門が腰を下ろす。

 ふたりして、 見上げやすいように両手を斜め後ろについて体重を預ける。

 「暫く眺めてから寝ようっ」

 「そーだな」

 語尾に音符がつきそうなくらいご機嫌な一之瀬の提案に、 土門は了承した。

 「……なんか、 ふたりっきりって久し振りだな」

 つい口元が緩むくらい嬉しそうに言う一之瀬に、

 「隣に木暮が来たからなー」

 土門は見当違いな答えを返した。

 「そうじゃないだろっ !? 」

 「えっ。 ……そんな怒ること?」

 「…………」

 吃驚した顔を向けられた一之瀬は、 視線を外して少しむくれた。

 ふたりして暫く黙っていたが、 やがて一之瀬が口を開く。

 「あの子、 ずっとくっ付いてくるし……」

 “あの子” で 「そっちか」、 と土門は気付いた。

 「浦部リカって子のことか……」

 土門はさっきの失言を心の中で後悔するも、 謝罪の言葉は言わなかった。

 「普段一之瀬からのスキンシップ多いけど、 される側だとダメ?」

 「そういうことじゃないだろ……。 大体、 土門からだったら嫌じゃない」

 力なく言う一之瀬を見て、 リカに対してかなり参ってるんだと苦笑する土門。 同時に少し体温が上昇した。

 「土門」

 項垂れていた頭はそのままに、 一之瀬は困ったような顔で土門を見つめる。

 「ジェラシーとか感じないの?」

 目が合ったのは数秒で、 土門の視線は星空へと戻った。

 「……感じてほしい?」

 「ほしい……」

 即答だった。

 土門は視線を変えず、 いつもどおりの口調で話し出す。

 「そりゃ、 少しはな。 やっぱ俺男だし、 一之瀬も女の子のほうが魅力的に思うかなって思った」

 「なっ、 何言ってるんだよ !?  俺は “土門” が好きなんだ !! 」

 「声デカイってっ! みんなに聞こえるだろっ !? 」

 身を乗り出して訴えた一之瀬に、 土門は人差し指を口の前で立て、 ヒソヒソ声で訴えた。

 一之瀬は土門のその手を握り、 下ろさせた。

 「……聞こえたって構わないよ」

 「いや構わなくないだろ」

 「ねぇ土門」

 「……何?」

 雰囲気で “そっち” のことを言われると土門は勘付く。

 「キスマークつけてよ」

 「……はっ?」

 しかし予想外だった。

 「俺は土門のだって、 印」

 「まさかリカに見せるんじゃ……」

 「そこまでしないよ。 自己満足」

 少し考える土門の返答を、 一之瀬は何も言わず待つ。

 見つめてる時間が妙に長かった。

 「分かったよ」

 一之瀬の真っ直ぐな気持ちに折れたのか、 土門は苦笑しながらも承諾した。

 土門は一之瀬のジャージのチャックを適当に下ろし、 親指を襟に引っ掛けて服を除ける。

 露われた鎖骨辺りに、 土門の唇が触れて、

 「っ!」

 「ごめんっ、 痛かったっ?」

 小さく漏れた声に土門はすぐ反応し、 一之瀬に問う。

 「ううん、 大丈夫。 ありがとう。 ……俺もつけていい?」

 「お前、 まさか最初からそれが目的じゃないよな?」

 「違うよ。 俺もつけたくなっただけ」

 最初の機嫌に戻ってる一之瀬には笑顔も戻っていた。

 「……まぁ、 良いけど」

 土門は自分で鎖骨を晒す。

 「あ、 脱がす楽しみがなくなるだろ」

 「そこ、 楽しまんでいい」

 「じゃあ、 良い?」

 「どーぞ?」

 手を使わなくてよくなった一之瀬は、 四つん這いの状態で土門にキスマークをつけた。

 ついでに首筋を舐めた。

 「ッ !!? 」

 土門は舐められた部分に手を当て、 上体だけ一之瀬から離れる。

 そんな素早い反応に、 一之瀬の笑顔はSになる。

 「首弱いんだぁ~」

 「おッまッ……!」

 一之瀬は土門の首に腕を回し、 抱きついた。

 「すき。 ……土門、 すきだよ。 愛してる」

 「…………」

 愛してるって言葉が似合う同級生もそうはいないだろうと心の中で思った。

 土門は告白にあえて答えなかった。

 「一之瀬」

 呼ぶのと同時に、 首筋に当てていた右手を一之瀬の服に移動させる。 服を引っ張ると、 一之瀬は軽く離れてくれた。

 ズレた重心を中心に戻した土門は、 自由になった左手を一之瀬の後頭部に持っていく。

 「キス?」

 「訊くなよ」

 たったひと言でムードが壊れて土門はつい吹き出した。

 緩んだ唇同士が、 触れた。

 触れていると、 一之瀬の手が土門の服の中に入ってきた。

 その手を土門が止めるとキスも終わり、 土門が抗議する。

 「いーちーのーせぇー」

 「ダメ?」

 「ダメに決まってんだろ。 流石に誰か起きるっつーの」

 「……そーだね。 やめる」

 一之瀬はあんまり残念そうでもなく、 素直にやめた。

 「もう寝るか」

 「あ、 手握って寝よ」

 イナズマキャラバンから下りようとした土門は動きを止め、 一之瀬に呆れ顔を見せた。

 「何子どもみたいなこと言ってるんだ?」

 「ダメ?」

 さっきと同じ台詞を同じように一之瀬は言った。

 土門は溜め息をつき、 条件を出しつつも承諾する。

 「……誰よりも早く起きて放すこと」

 「あははっ。 いつも土門のほうが早く起きるくせに」




 「結局星あんまり見てないな」

 「口実だから良いんだよ。 楽しかった~」




2009/07/26

リカが絡むと寧ろ一之瀬君が土門を気にしてるほうが萌ゆ。