いたずら篇


 リカがイナズマキャラバンに参加した事で、 当然のように一之瀬の隣を譲り渡す結果となった。

 嫌だったけど、 仕方ないと理解している。

 (まぁ、 俺らも普段からくっ付いてたわけじゃないから、 隣の席くらい……)

 「ダーリン! 福岡ってウチ初めて行くねん。 めっちゃ楽しみやわぁ」

 「俺も初めてだよ……」

 リカは常に一之瀬の腕にくっ付き、 他愛のない会話をしていた。

 一之瀬はくっ付かれていることに未だ慣れず、 ずっと愛想笑いを零しながら返している。

 俺が暇そうにしていると、 通路を挟んだ隣に座る木暮が小さく手招きしたので、 肘に体重を掛けて目一杯耳を近づけた。

 木暮はコソコソと耳打ちした。

 「大変だなぁ。 あんな五月蝿い女の隣で。 うっしっしっしっし」

 「……まぁな」

 愛想で返したつもりだけど、 半分本気入ってた気もする。

 木暮は俺の後ろ襟を引っ張ると、 何かを入れた。

 「のあっ !!? 」

 俺は前屈みの上体を一気に起こして、 反動で少し仰け反った。 ら、 リカにぶつかりそうになった。

 「きゃっ」

 「わっと、 ごめっ」

 「ダーリ~ン!」

 リカは意味もなく、 さっきより一之瀬と密着する。

 「…………」

 「うーっしっしっしっしっし」

 気付くと、 俺の妙な叫び声と木暮の笑い声に、 イレブンのほとんどがこちらを向いていた。

 「どうした? 土門」

 イレブンの代表として円堂が俺に訊いた。

 「木暮が服の中に何か……」

 「取ってあげるよ。 じっとしてて」

 一之瀬に言われるがままじっとしていると、 俺の背中に一之瀬の手が触れた。

 「…………!」

 気のせいか、 一之瀬の手は “何か” を探してる動きには思えない。

 (ダメだ感じたら……、 みんな見てる……っ)

 俺の前髪は全部立ってるから、 下を向いても顔が見える。

 凄く身体が熱くなってきた。

 「一之瀬……」

 もう、 我慢できない。

 「擽ったい……っ!」

 ついに笑いながらそう訴えた。

 「ごめん。 もう取れたよ」

 一之瀬の手には玩具の蛇が握られていた。

 「冷たかったんだコレ」

 玩具の蛇に対して一之瀬が感想を漏らすと、 ソレは座席の前のネットに入れられる。

 何故だか一之瀬は、 余計に笑顔だった。




 福岡の陽花戸中に着くと、 そこのサッカー部と合同練習をした。

 その日の夜は、 イナズマキャラバンの座席を倒し、 寝転がって寝られた。

つまり、 女の子達は外にテントを張って寝たということ。

 斜め上から、 下から、 一之瀬の向こう側から寝息が聞こえ始めた頃、 俺と一之瀬は、 久し振りに触れ合えた。

 寝袋からそれぞれ片腕を出し、 指を絡ませる。

 「ね。 キスしよう」

 「……なんで英語?」

 一之瀬に合わせて声を最小限抑えながら英語で返す。

 「もし聞かれても多分、 意味分からないだろうから」

 英語ができそうな風丸と鬼道は幸い一番離れたところで寝ている。 一番近い壁山と目金は……英会話はできなさそう。

 「なるほどね。 でも、 音が出るからやらない」

 「そんな淫猥なとこまでしない」

 「淫猥っておま――」

 「触れるだけ。 ね」

 英語だからって言いたい放題だが、 上目遣いなのは、 ズルイと思った。

 「…………」

 近寄る時に衣擦れの音がした他には小さな音も出さずに、 静かにキスをした。

 「……土門、 音に気をつけるといつもより甘いね……」

 「……そうか?」

 「うん。 とろけそうに甘い」

 「…………」

 こういう恥ずかしい発言は、 控えてほしい……顔が熱い。

 「あ。 そういえば今朝はごめんね。 みんなの前でいっぱい触って」

 「……やっぱり、 態とだったのかアレ……」

 一之瀬のSっ気には薄々気付いていたけれど、 みんなの前でやられると反応に物凄く困る。

いや、 あの時は逆に素直に反応してたほうが普通だったのかもしれないけど。

 「だからごめんって」

 「もうみんなの前でああいうことするなよなぁ」

 「……分かった」

 「なんだ今の間は」

 一之瀬は楽しそうにクスクス笑った。

 「分かった。 ありがとう」

 身じろいだと思ったら一之瀬は俺の手の甲に唇を触れさせ、 腕を寝袋の中に戻した。

 「おやすみ土門」

 日本語に戻ったのに倣い、 俺も日本語で返す。

 「おやすみ」

 キスされた手の甲を見つめた。

 「一之瀬」

 たまらなく愛しい。




2009/08/05

なんか激しく土門がMっぽく終わってしまった (笑)。